ミニコラム


〜高校演劇の話〜

「綺麗にしてくれてありがとう」


並木雅浩


僕は高校時代で演劇部だった。

演劇部には年に一度大会がある。

地区大会、都大会、関東、全国といった具合にスポーツの部活よろしく整備はされているのだが、とはいえ点数のつけようがないため結局審査員のフィーリングみたいな所も多分にある。

都や関東大会はさておき、最初の地区大会は各20校程度が参加し、持ち時間が各1時間だから大体全体20時間くらいかかる、残念ながらそのうちの17時間くらいはどういう顔をしてみたらいいのかわからない作品であることが多い。

それには大きく二つの原因がある。
まず単純に若さゆえの経験・勉強不足がある。中高生はなかなか良質な演劇に触れる機会も限られていて。上位大会常連校などは顧問がここを補填している場合もある。

もう一つは精神性にある。
やる気のない俳優の雰囲気や、張り切りすぎた俳優からの褒めて欲しい…といった誰もが持っている感情ではあるが、舞台という場においてそれは暴走しがちである。そういった精神的な偏りが、作品のえぐみとなり伝播してしまう。

優良な高校演劇は精神をフラットに保っているか、演出で上手にラッピングするかである。

前置きが長くなったが、このようなことが当時の僕の地区大会の現状であった。(もちろん面白い高校は沢山ある。)

僕はその地獄において、一人忘れられない奴がいる。

高校名、演目名、ましてや本人の名前さえわからない。

アイツのいた演目自体はとりたてて覚えていることもなく、覚えていないがどうせ学生間の友情がどうこう、みたいな話だっただと思う。

舞台もシンプルで中央にベンチが置かれているのみであった。

中盤で3人ぐらいの学生役がセリフを回していたとにきアイツがやってきた。




清掃員役の男の子である。




舞台を2回くらいほうきで掃いてそのまま舞台から消えていった。




そして奴が二度と現れることはなかった。




鳥肌がたった。




登場時間30秒程度、どこかで清掃を行っていてその瞬間だけテレポートしてきたんじゃないかというくらいの出際の良さ、そして無駄のなさ。

なんの伏線でもない、ただの清掃員。

アイツは今でも僕の人生史上で演劇におけるちょい役の頂点に君臨している。

誰も笑っていなかったが、僕はアイツを絶対に忘れない、なぜなら高校生にしては『日常を切り取り過ぎていた』からだ。

実際は役数にあぶれた新入生なのだろうが。
僕は度々、あの時アイツはどういう気持ちだったんだろうとな思いをはせる。

もし会えることができたなら、なんでも奢るからあの箒さばきをもう一度見せて欲しいところだ。

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